【概要】
本研究は,乾燥収縮ひずみによって生じる鉄筋コンクリート構造物のひび割れについて,ラーメン構造の部材間の拘束によって柱および梁に生じる危険性を,高層多スパン骨組のフルモデルにおけるFEM解析によって評価することを目的としている。ここでは,解析パラメータを,単位水量の違いによる乾燥収縮量,建物のスパン,施工工程の考慮の有無,自重の有無とし,10年後の推定値によって比較検討した。その結果,ひび割れが生じる危険性のある建物の部位やその条件を把握することができた。
【結果の詳細】
1) ひび割れの危険性の高い部材の位置を評価した結果,桁行方向については,柱は最端部に,そして梁は中央部に位置するものが,高さ方向については,梁は低層階,そして柱は低層階および高層階に位置するものが,それぞれひび割れの危険性が高くなる傾向を示した。
2) スパン数の影響については,施工工程を考慮する場合には,スパン数が大きくなるほど,低層階においてひび割れの危険性が高くなることが分かった。
3) 柱についてのひび割れ指数は,自重による圧縮ひずみによって,本解析の範囲内では概ね1.0を上回る結果となった。
4) 梁についての引張弾性ひずみおよびひび割れ指数ともに自重考慮の有無に大きく影響を受けない。また,単位水量の影響は,165~200kg/m3の範囲であれば,185 kg/m3を基準とすると+20~-10%の範囲で変動する。
5) 施工工程を考慮する場合としない場合とでは,ひび割れ指数に与える影響は大きく,施工工程を考慮して下層階の拘束を受けることによって,施工工程を考慮しない同時乾燥の場合よりも小さな値となり,ひび割れに対しては厳しい評価結果となった。
6) 梁の拘束率は,施工工程を考慮する場合には低層階で大きな値を示すものの,中高層階ではほぼ一定で,0.15程度であった。
7) 本解析研究では,梁についてのみひび割れの危険性が高いことが言及されているが,季節変動における温度ひずみが生じる場合には柱も十分にひび割れる危険性はあること,さらに,ひび割れ指数は部材断面の軸方向ひずみに基づく平均値を抽出したものであり,曲げひび割れやせん断ひび割れについては取り扱っていないために,今後はこれらのひび割れの危険性についても検討する必要がある。
【発表論文】
2014年度日本コンクリート工学会年次論文報告集
ホーム3.RC構造物における時間依存性構造学3.5 施工プロセスを考慮した構造解析