ホーム2.時間依存性構造学とは

2.時間依存性構造学とは

時間依存性構造学

【研究室の取り組み】
 今日の安定成長の時代には、「壊しては建てる」という建設生産から、これまで建てられた多くの建設物のストックをどのように生かし、保全するかという持続的社会への課題が重要となります。しかし、建設物は様々な要因によって経年劣化を起こし、その性能は年々低下します。これまでは、新築の状態で設計を考えればよい時代でしたが、これからは長期的な使用性を保証するのであれば、このような経年劣化を考慮した設計法が必要となります。特に、コンクリート構造物にもその劣化は避けられず、乾燥収縮や温度ひずみなどによるひび割れが発生するため、建設物の構造性能は施工直後の応力状態から徐々に変化し、構造性能(変形性能を含む)も低下しているものと考えられます。したがって、本来であれば、構造設計による安全設計を行う場合には、この経年変化あるいは劣化を考慮した長期的な構造解析を実施した後に、耐震性などの短期的な構造解析を実施すべきであるというのが本研究室の考えです。こうした中、渡部研究室では、このような長期的な構造安全性を持続できる鉄筋コンクリート構造学の新しい学問分野として、「時間依存性構造学(Time-Dependent Structural Engineering)」の確立を目指すこととしました。


【耐久性力学】

 日本コンクリート工学会によると、「耐久性力学(Durability Mechanics)」とは、「水和・環境・外力等によるセメント系材料の変質・劣化現象の時系列上での進展を、反応・移動・破壊およびそれれらの相互連成を考慮した物理化学モデルにより記述するとともに、コンクリート構造物の性能の経時変化への影響を構成則で記述することで、材料・構造に関する時間依存性問題の体系的な予測と評価を実現する学問体系」としています。
(参考文献:コンクリート構造物の耐久性力学(JCI,2009年) PDFファイルを表示

【研究領域】

 コンクリート構造物の物理的な性質や構造性能は、材料物性や部材構法の条件のみならず、施工プロセスすなわち施工条件によっても大きく影響することは、よく知られています。これは、施工プロセスも時間軸を基本に設定されているからです。例えば、型枠の存置期間などはコンクリートの強度に大きく影響し、支保工の取り外し時期についてはその後の変形性状に大きく影響します。また、施工プロセスの一つである積層工事であれば各層の施工間隔は、構造物全体の応力状態に大きな影響を及ぼすことも分かっています。特に、一般的に行われている骨組全体を一体とした場合の応力解析結果と、施工プロセスを考慮して、その都度応力解析を実施した場合の応力解析結果とは大きく異なることが明らかとなっています。したがって、コンクリートの構造解析には、時間依存性を考慮しなければならない施工プロセスも施工条件として構造解析条件に入れる必要があります。
 一方、建築構造物の構造設計において、現行の設計法は、主に、設計時の材料物性と構法条件を設計条件としています。しかし、コンクリートなどの材料物性は時間依存性を有することは自明であり、上述のように、施工条件によっても、時間依存性を有する材料物性や骨組みの応力状態に与える影響が大きいことは明らかです。これらを鑑みて、本研究室では右図のような、材料・構法学、施工学、および構造学の境界領域を研究領域としています。


【時間依存性構造学】

 本研究室では、日本コンクリート工学会が提唱する「耐久性力学」を鑑みて、①時間依存性を有する材料物性や構法条件と、②品質や構造外力に大きく影響を及ぼす施工条件とを解析条件とし、③ひび割れやクリープ変形などの長期性状を予測する構造解析法と、④耐震性などの短期的な構造解析法とを連成した解析法を新たに開発し、これらを体系的に関連付けた長期的な構造安全性を志向した建築構造学を、「時間依存性構造学(Time-Dependent Structural Engineering)」としています。本研究室では、この時間依存性構造学を強く志向した劣化予測システムと安全設計システムの構築を目指しています。右図は、従来の構造設計の課題と耐久性構造学の課題とを比較しています。さらに、時間依存性を考慮した構造解析プロセスの例を右図に示します。

渡部研究室の課題は、「材料・構法学」「施工学」「構造学」の3分野から構成されています。(図をクリックして拡大)
従来は、設計条件として、材料条件と構造条件を設定し、その条件に対して構造安全性を評価するシステムが一般的である。(図をクリックして拡大)
本研究室では、従来の材料・構法条件だけでなく、施工条件も含めた解析条件を設け、これに対して、長期的な構造解析を実施するとともに、耐震性などについては、長期的な解析を実施した後、このままの状態で短期的な構造解析を行う課題を研究している。(図をクリックして拡大)
長期解析と短期解析とを連成しています。長期解析での応力・ひずみをそのまま短期解析に引き継ぎます。長期解析は、逐次積分法(step by step)を採用し、逐次弾塑性解析を実施しているとともに、クリープ解析をその都度実施しています。(図をクリックして拡大))
ページの先頭へ